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第2章-4:最初の本格的な検証報告書,1

平成10年が明けました。
建築家E氏との数回のやり取りの中で、外壁および軒天井を一部剥ぎ取って内部状況を調査することも止むを得ないと感じるようになっておりました。
自然科学者として、何らかの異常現象に遭遇した時には、「なぜか?」を徹底的に問うことを根本の姿勢として、私は学んできたからです。

一方では、いろいろな思いを託して建築した建物に人為的なキズを加えることには大きな抵抗がありました。そこまでしなければならないのか?そういう思いが強かったのです。
何よりも開院を決心するに至るまでの万感の思いが去来しました。私は、E氏へ依頼した調査を思いとどまろうか、と何度も考えました。しかし、やはり壁の中を覗いて調査しなければ本当の原因を知ることはできないのだと悟りました。

人体が原因不明の病に冒されて苦しんでいる時に、なるべく血を流さない方法で原因を知ることができればそれにこしたことはなく、外科的処置はあくまで最後の手段であるべきだと思います。しかし、外部をいくら調べても理解できない事態もいくらでもあり得ます。

当院の建物が示してきた、あまりにも早い内外への雨漏りや強風時の揺れ、雨の時のバラバラと鉄板で豆を煎る時のような騒音は、外見をざっと見ただけでは説明困難でした。

平成10年1月31日に、E氏による建物現況調査が実施されました。建物外壁は一部のみを剥離しました。
また軒天井なども最小限の調査に留めてもらいました。









その結果、
1:一部基礎と土台が食い違い、土台が浮いた形になっている個所がある。

2:外壁の仕様が設計図書とまったく異なっている。
外壁タイルは厚さ7ミリの石綿ボード様のもの(注:後にサーモプライという構造用合板の代替品であることが判明。ただし、サーモプライの本来の厚さは3.5ミリであり、耐力も厚さ9ミリの構造用合板の3.5という数値に比して、1.5しかない。しかもこれは補強用補助金物を使用した場合の数値であり、使用しない場合には建設省の許可は得られていない 。
Q&A3を参照)に直接モルタルで圧着してあるだけで、はっ水塗料を吹き付けてある(Q&A2を参照)が、石綿ボード自体が湿気を含み、タイルも部分的に剥がれ、目地の形状も粗く、防水効果がどれだけあるか疑問である。

3:耐力壁に設計図書に記載されている構造用合板は使われていない。(以下ほぼE氏による報告書のまま)
本来、ツーバイフォー工法とは、木材で枠組みを作り、その枠を構造強度的に期待できる面材でサンドイッチし、パネル状にすることにより強度のある屋根・壁を構成していく工法であるが、その生命線である面材の仕様が設計図書と異なっているという事は、大変な問題であると言える。

4:軒天井は、雨水が浸入し、下地とも状態が悪い。金属板の下地はすぐ木毛板(合板)で、防水用のアスファルトルーフィングが見られない。
木毛板は軒裏と同じく一部濡れている。軒樋がなく、軒先は曲面で雨水が軒天井に回りやすい構造になっている。また、いったん浸入した水は、指示金物などに止められ、流れ落ちにくい構造になっている。
瓦棒葺きと曲面との取り合いの部分も水の浸入の危険性をはらんでいる。目視上まだ美観を保っている軒部分についても、手で少し押し上げると湿気を含んでブヨブヨしていた。他の部分と同じような状態になるのも、時間の問題と言えよう。









5:屋根。状態悪し。将来的な危険性大。要抜本的な改善。防水層と木毛板との施工が逆。屋根の勾配が不充分。
トップライト(天窓)部分は周囲に水たまりができている痕跡が多数見られた。
玄関上部の隠し樋については、勾配が逆に施工されており、常に雨水がたまった状態となっている。複雑な屋根形状に、金属屋根の施工性が追随していないというべきかもしれないが、全体的にコーキング(隙間充填材)に頼り、数年で雨漏りや、トラブルを起こしかねない状況が予想される。

6:天井裏。設計図書の矩形図には、グラスウール厚さ100ミリが屋根面に沿って安定した形で入っているが、現実には所々に丸まった形で入っている。
これでは、断熱・吸音の両面から見ても、ほとんど無意味である。現行は入れていないに等しい。

7:結論。建物の、基本的な構造強度、耐久性に関わる問題が非常に多く、いわゆる部位ごとの部分的な補修程度では、建物の強度上、耐久性能上、根本解決にならない重要な事項が多い。現状の問題点を客観的にとらえて、構造上の安全性、耐久性能上の 妥当性を十分に検討した上で、それらが論証されない場合は、根本 的に本建物のゼロからの再建設の必要性も発生すると考えられる。
ともかく、設計者・施工者の両者が、早急に現状を謙虚に把握し、その 安全性・妥当性を明確に施主に提示することが求められるだろう。
(注:下線はE氏による)

さて、以上のように、E氏の調査によって、当院の建物には致命的な欠陥がこれでもか?というほど多く発見されました。
私は、
「それでは、どのような補修をすれば、元に戻るのでしょうか?」とたずねました。驚くべきことに、E氏の答えは、「残念ですが、この建物をこれからどういじっても原状回復はできません。すでに構造体を含めて、壁にも屋根にも多くの漏水が発生しているからです。設計にも施工にも多くの無理が認められます。壁の耐力も不充分としか思えません。







ただ、建て替えではなく、少しでも腐食を遅らせるという考えかたに立てば、とりあえずは、これ以上の漏水を止めることが先決です。そのためには、屋根と外壁をすっぽりと別のもので覆うという手段が考えられます。」

「つまり、現況の建物の外側に体育館を被せるようにですか?…」
E氏
「残念ながら、この建物自体は竣工時の状態に戻ることはないでしょう。」

しばらく、私には事態が飲みこめなかったのですが、ようやく理解できたのは、要するにずぶ濡れになった人に対して、かぜをひかぬよう、これ以上雨に濡れずに済むように、頭からフード付きのレインコートを被りなさいというようなものだったのです。濡れてしまった部分はもう元には戻らないのだと。それにもともと病弱な人だったのだと。その事実がどれほど異常な事態であるのか、私が本当に理解できるには、まだ日時が必要でした。
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