建物被害の現状が明らかになるにつて、私の精神的状態はきわめて不安定になりました。もっとも大きなダメージは、私の日常業務に支障が生じるようになったことです。
私の日常業務とは、「おなかが痛い、頭が痛い、熱がでた、咳が止まらない…」という子どもとそのご家族に対して、「毎日きちんと食べていますか、眠れていますか?」と問い、その悩みに答えていくことのくり返しに他なりません。
しかしそれはどのような環境で行われているのでしょうか?
構造体が大部分腐っているような建物に囲まれて、いつ地震や強風で崩落するか分からない診察室で、他の人の悩みを聞かねばならない毎日。悩みを抱えてこられる方々を相手に、「それより私の悩みを聞いてくださいよ」とは言えない。それが私の日常業務なのです。
当然ながら、今やその日常業務の遂行が困難になりつつありました。
私の経験と現実はあまりにも非日常的であったからです。
その現実を直視しつつ、過酷な経験を非日常のものとしてまつりあげ、日常と切り離すことによって、本来の業務を支障なく遂行することができないものか、私は懸命に考えました。
そうして辿りついた結論、それがホームページの開設でした。
開設に際しては多くの方々の協力を得ることができました。
皆ボランティア同然ですが、現実の建物のひどさにいきどおりを感じて結集してくれた方々でした。
それまで私はインターネットのことなど何も知らないに等しく、他人のHPを覗いたこともなく、従って欠陥住宅のHPも見たことがなかったのです。
この1年余、日々の業務を終えて私は自分のホームページに向かってきました。毎日わずかな時間ですが、しばし非日常的現実に立ち還り、神棚や仏壇に朝夕手を合わせ、日々の安全と安寧を祈願するように、静かに祈りを奉げています。
つまり、このサイトは私の心をまつる場所、独立開業までの万感の思いを納める鎮魂の祭壇、現実に進行する日常業務を安全に保護するために不可欠の慰霊の森なのです。
このHPを訪れ、また伝言板にご意見を述べてくださる方々は、それが好意的であるなしに関わらず、見も知らぬ他人の仏壇に線香を供え、わずかでも体験を共有してくださる方々であろうと思います。
(第3章終わります。第4章は裁判の経過を見て再開しますので、しばらく休筆いたします。ご了解ください。)
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