1997-3

               一木こどもクリニック便り 1997年3月(通算3号)

いよいよ春ですね。
2月20日に春一番が吹いてから、アレルギー性鼻炎および結膜炎(花粉症)の患者さんが、突然に増えてきました。また、2月後半からインフルエンザの再流行が見られます。
3月は、季節の替りめです。衣服が春物になったり、冬物に戻ったり、体調を崩しやすい気候がしばらく続きます。雛祭り、花見を迎えるともう本格的な春。寒さの苦手な私には、とても待ち遠しかった季節です。

【こどもの病気の診かたと看かたA】

前回の通信では、「食う・ねる・遊ぶ」が三拍子そろってよかったら心配しなくても良いが、全部悪かったら重症の可能性が高いということをご説明しました。またこの原則は、年齢にかかわりなく、心と身体の異常を問わず、しかも人間だけでなく、ペットにも、あらゆる生きとし生けるものに共通の大原則であることもお話しました。 この、「食う・ねる・遊ぶ」原則は、さらにありとあらゆる症状に対して、病気の程度(重症度)の判断には、ほぼ普遍的に適用可能です。すなわち発熱、咳、鼻水、嘔吐、下痢、腹痛、発疹、頭痛、食欲不振、朝起きれない、学校・幼稚園・会社などに行けない、etc.。それだけでなく治療効果の判定や、日常生活管理上の判断(入浴、運動、etc)にも応用できます。これらについては、次号以下で順次解説の予定です。 今回は小児科の外来患者の大多数を占める、急性感染症およびアレルギー疾患について、見分け方を解説します。

感染症(ヒトからヒトにうつる病気)の特徴


図1を見て下さい。急性感染症の例として、インフルエンザを考えてみましょう。あるいは、はしか(麻疹)でもよいのですが、ヒトからヒトにうつる(感染する)病気の特徴として、病原体が生体に侵入してから、病気として姿を現す(発症)までに、それぞれの病原体ごとに定まった、無症状の期間が経過します。この期間を潜伏期といいます。 潜伏期が過ぎると発症します。これから病気が目に見える姿かたちをとるわけですが、病原体と生体との力関係で、以後の経過が決まります。すなわち初めは、病気の勢い(病勢)が強く、日に日に悪化してゆきます。そしてもっとも病勢の強い極期を迎えます。昔から、この極期をあらわすのに「今夜あたりがヤマです」とか、「今が峠です」とか言っておりました。


さて、インフルエンザの一般的な経過を一週間としますと、前半4日が上り坂で、後半3日が下り坂、峠は、第4日ということになります。ところが、興味深いことに、病気の勢いとしては、上り坂であるにもかかわらず、発熱などの症状が、いったん治まったように見えることがあります。 しかし病勢はまだ上向きですから、1〜2日すると再び発熱します。みかけの解熱(げねつ)時期と病勢の沈静時期とが一致していないのです。ふくろう通信1号の付録"インフルエンザにかかった時に注意すること"をご覧下さい。はしかの場合にもよく似た現象がおこります。最初に38℃ くらいの熱と、鼻水や目ヤニ、軽いセキがでます。2日ほどで、いったん解熱するのですが、この解熱は見せかけで、すぐに今度はもっと高い熱がでます。それと同時に全身に発疹が出ます。セキは一層ひどくなり、タンがからみ、目ヤニ、鼻水などの水物もさらにひどくズルズルと出ます。これらの水物のことをカタル症状と呼びます。カタルとは、元来ギリシャ語で、「流れる」という意味です。大体3〜5日くらい高熱が続いてようやく本当に解熱します。

アレルギー性疾患の特徴

ところが、アレルギー性の病気では、始まりは大体分かるのですが、終りがはっきりしない、一体何時まで続くのか、延々と同じ症状が継続します。そして、ここが大切なポイントなのですが、症状の良い時と悪い時とが、24時間をサイクルとして、繰り返すのです。例えば、朝起床の時だけセキがでるけれども、昼間は無症状であるとか、夕方になるとクシャミ、ハナミズがでるなどです。夜ベッドに入ると途端にセキ込む、というパターンもあります。このセキに対して、カゼとしての治療をいろいろ試みても、あまりスッキリとは改善しません。ただ延々と2週間以上にわたって同じ症状が続きます。より詳しく言いますと、大潮、中潮、小潮くらいの差はあります。アレルギー性気管支炎(もっぱら症状はセキだけ)、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、食物アレルギーとしての下痢症、みな共通して、この延々と続くという特徴をもっています。適切な治療を行えば、かなりコントロールすることは可能ですが、なかなか症状をゼロにすることは困難です。気管支喘息や、アトピー性皮膚炎のようにアレルギー反応だけでは説明できない他の要因が加わった疾患では、事態はもっと複雑になります。これらについては別途詳しく解説の予定です。

2歳未満児のながびくハナミズは、別物

この年齢の乳幼児では、別にアレルギー反応でなくとも延々とハナミズやセキが続くことはよく観察されます。冷気、乾燥した空気など、体温が高めの乳幼児にとっては、外部環境と自分の生体内環境との落差が大きいと、空気取り入れダクトである鼻のところで、その落差を調節しようとするからです。したがって、鼻孔で結露がおこり、ハナミズとなるのです。そのハナミズが寝ているあいだに気管支に流れ込んでセキとなります。

【アトピー性皮膚炎についての面白いお話】

アトピー性皮膚炎は、かつて国会でも取り上げられたことがあるくらい重要な疾患ですが、それは小児人口の約10〜20%(統計によっては、30%)の子どもたちが、罹患しているにもかかわらず、未だに真の原因が不明でなかなか根治せず、場合によっては、患児の生活の質(Quality of life : QOL)を著しく損なうこともあるからなのです。今回は、まだ認知されていませんが、大変ユニークなアトピー性皮膚炎(および花粉症など)の発病メカニズムを提唱している本をご紹介いたします

 [笑うカイチュウ 寄生虫博士糞闘記:藤田紘一郎、講談社;税込定価1500円]


今から40年ほど前の日本では、カイチュウなどの寄生虫保有率は、国民全体の70%だったのに、高度成長、都市化、下水の整備、化学肥料の使用、、、などの急激な社会変化に伴なって、近年のわが国民の寄生虫保有率は、わずか0.2%にまで落ち込んでしまい、代わって急増してきたのが、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、花粉症などのアレルギー性疾患です。そして、寄生虫感染者とアレルギー患者には、血液中の免疫グロブリンの一つである、IgEという物質が増えてくるという共通点があるのです。面白いことに、寄生虫患者の血中のIgEは、花粉やダニやカビ、その他アレルギーの原因となる物質が生体に侵入してきても、これとは反応しません(非特異的IgE)。ところが、アレルギー患者の血中のIgEは、これらの物質と反応し、肥満細胞の表面にくっついて、この細胞の中に仕舞い込まれているヒスタミン、などのかゆみ物質やその他のアレルギー反応物質を放出させるのです(特異的IgE)。この事実から、著者の藤田先生(東京医科歯科大学教授)は、「もともと寄生虫患者は、IgEをつくる能力を目いっぱい使っているから、花粉などの微量アレルギー物質が侵入してきても、もうそれ以上の特異的IgEをつくれないのではないか。だからアレルギーを予防するためには、お腹の中に寄生虫を飼えばよいのだ。寄生虫は沢山の栄養を横取りするから、ダイエットにもなるのだ」と、推論アンド暴論を述べておられます。皆さんはどう思われますか。アッ突飛―な考えね、ムシしましょ! で良いでしょうか。

【編集後記】

今月号では、小児科外来患者の大部分を占める、感染症とアレルギー疾患について、その基本的な考え方を解説しました。ここで述べていることは、成人の病気についてもそのままあてはまります。挿し絵は、今回も当クリニックの婦長さんのお嬢さん(田中智子さん)にお願いしました。2号は、若干のバックナンバーがあります。 (文責 一木貞徳)

発行:(医)一木こどもクリニック (責任者 一木貞徳) 1997.3.3 
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